002 花火
「お?」
下校中。隣を歩くもっちんが、何かに気付いたように足を止めた。
「どうしたの、もっちん」
「いやなんか、爆竹みたいな音が聞こえたから。ぐっさんは聞こえない?」
両耳の後ろに手を当てて、よく聞いてみろというジェスチャーをするもっちん。
注意して聞いてみると確かに爆竹の音がした。散発的だ。小学生が戦争ごっこでもやっているんだろうか。
「結構遠いな」
「そうみたい。ヤンキーが戦争でもやってるのかな?」
「さあ」
今時のヤンキーが喧嘩で爆竹を使うのかは知らないし、正直僕にはあまり関係ないのでその辺はどうでもよかった。
しかしヤンキーより先に小学生が頭に浮かんだ僕は、きっともっちんに比べて荒んだ小学生時代を過ごしていたんだと思う。
「爆竹って威力あるのかな?」
「普通の花火よりはあると思うけど」
「じゃあロケット花火とは?」
「それは人に向けていいものじゃありません」
や、爆竹もだけど。ちなみに、そう言いながらも僕はロケット花火を人に向けて背後から撃つタイプだ。
「花火ってさ。どっちかというと、花より華だよね。派手だし」
「……ああ、確かに」
「今の間は何?」
「脳内変換」
もっちんはよく感覚でものを言うので、自分では納得のいく表現でも他人には伝わらないことがたまにある。例えばさっきのように、発音はまったく同じで漢字だけ違うとか。
「ああ、ごめん。でも花火って考えた人天才だと思うんだ。火炎反応だっけ?」
「炎色反応」
「そうそれ。あんなのよく見つけたと思わない? だって青とか緑の炎が見えるんだよ? はじめて見たらたぶん、もっちんさんなら何かの呪いかと思っちゃいそう」
「実際、そういう使われ方もしただろうね」
呪術師や錬金術師あたりならやっていそうだ。今でこそ義務教育で習うようなことだけれど、数百年前ならさぞ恐れられることだろう。
「ん? そう考えると、それを最初に空に打ち上げてみようとか思った人は、呪いをまき散らそうとでもしたってこともあるかも? ぐっさんどう思う?」
「花火の創始者については全く知らないからその辺は不明だけど、確かにそういう可能性もあるかもしれないね」
だとしたら皮肉な話だ。世界に呪いを撒き散らすための炎だというのに、人々の心を楽しませる華やかな存在になってしまったのだから。
まぁ、もう何世紀も前の人間の思惑なんて今を生きる僕達には関係ない。呪いの炎だろうがなんだろうが、僕達がそれをきれいだと思って、そして楽しめればそれで十分だ。
そんな事を考えていると、花火に劣らず華やかなもっちんは、思いついたようにぴっと指を立てた。
「あ、そうだ。ぐっさん、夏が来たら一緒に花火でもする?」
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……………………よし、思考回路がフリーズ状態から復帰した。
「えっと、もっちん? 今のってつまり――」
「クラスのみんな集めてさー。それくらいいたら打ち上げ花火もできるかもしれないよ。あ、でも打ち上げ花火って許可いるんだっけ? ぐっさん知ってる?」
「…………さあ。どうなんだろうね」