005 タイム・リミット
「お、おはよーございます!」
キーンコーンカーンコーン、というテンプレみたいな予鈴が鳴り響く中、まさに遅刻ギリギリの時間にもっちんが教室へと入ってきた。相当急いできたらしい。髪の毛はぼさぼさ、制服もリボンが変な方向を向いていて、その姿は何も言わずとも「寝坊したので急いできました」と雄弁に物語っていた。
しかし、そんな頑張りも実を結んだとは言えない。何故なら、教卓にはすでに朝のSHRをするために担任の先生が来てしまっていたからだ。
「ええっと…………ア、アウトですかねー?」
疑問と不安が混じった微妙な笑みを浮かべるもっちん。
先生はどこか呆れたようにため息を吐いた。
「まだ名前を呼んでないし遅刻扱いにはしないから、とりあえず格好をちゃんとしてきなさい」
「あ、ありがとうございまーす」
もっちんは深々と頭を下げると、踵を返して教室から出て行った。そんなもっちんの姿に僕たちクラスメイトは笑いを起こす。
空気を切り替えるように、先生が咳払いを一つ。
「えー、今日は許しましたが、本来ならタイムリミットは予鈴がなる前です。それまでにきちんと登校して、授業の準備をしておくように。では出席を取ります」
そう言うと、先生は名簿を手に名前を呼び始めた。
しばらくして点呼が最後の五人くらいになった頃、
「望月復活しました!」
もっちん再登場。まだ三分と経ってないが、その割には髪もリボンもきちんとしている。しかし復活って何だ。
先生は値踏みするような目でもっちんを眺めた後、「よし」と言ってもっちんの席を指差す。
「以後気をつけるように。では、席に着きなさい」
「はーい」
もっちんは教室を出て行った時と同じように深々と頭を下げると、自分の席へと向かって行った。
それから点呼を終え、連絡事項は特になしという先生の一言でSHRは終了し、先生は教室から出て行く。同時にHRが始まる前と同じ喧噪が教室内に戻った。
授業が始まるまで、五分もない短い時間。その間にもっちんは僕の席へとやってきた。
「ぐっさん、おはよー。いやー、今日はさすがに遅刻するかと思いました」
「おはよう。珍しく遅かったね。寝坊?」
僕の問いに、もっちんは「んー」という声を漏らした。
「寝坊もそうなんだけど、実はポストを探してたのです」
「ポスト?」
「うん。ポイントたまったから懸賞ハガキを出そうと思ったんだけど、まさかまさかの明日締め切りでね。時間もないのに探しまわって、たいへんだったよ」
「学校の目の前にある郵便局は?」
「うん、完全に忘れてた」
「あっはっは」と照れ隠しのように笑うもっちん。なるほど、もっちんらしいミスだ。
「学校と懸賞と、二つの時間に追われて焦ってたみたい」
「まぁ、どっちも時間ぎりぎり間に合ったんだからよかったんじゃない?」
「まーね」
そう言うと、今度はニッといつも通りに笑った。それからいつもより若干早口で、そして楽しそうにもっちんはいつもの世間話を始める。
朝から活動的だったせいか、今日のもっちんはいつもよりテンションが高めだった。
個人的にはいつもよりもっちんの笑顔が見られてラッキー、といったところ。