013 引き金
「ばーん」
………………………………。
「………………………………」
………………………………。
「………………………………」
………………………………あー。
「うっ」
「むぅ、ぐっさんの装甲は堅いなぁ」
「いやもっちん。単に僕が気付いてなかっただけだから。銃弾が装甲突き破るまでを表現した時間差ネタとかじゃないから」
胸を抑えて机に突っ伏した僕を見て言うもっちんに、むくりと起き上がって訂正する。
唐突なネタ振りだった為、反応できなかった。というか、いきなりそんな事やられて撃たれるリアクションを取れる方がおかしい。関西人はそれがナチュラルにできるという話を聞いた事があるけれど、それが事実だとしたら彼らのお笑い反射神経は異常だと僕は思う。
もっちんは指で銃を作ったまま、再び「ばーん」と言って発砲を表した。ちなみに今回の銃口は誰もいない方向に向けられている。
「うーん、やっぱりすぐ反応できる人ってあんまりいないんだね」
「あんまりって事は、少しはいたの?」
「うん。アッキーにやったらすぐさま机の影に隠れて応戦してきたよ」
もっちんの言う光景が一瞬で思い浮かんだ。さすがアッキー。
「あ、でもピストルじゃ勝負がつかないと思ってマシンガン使ったら、アッキーはロケットランチャー発射してきたんだよ。ずるくない?」
「ずるいと言うか、意味がわからない」
ただのネタ振りがそこまで壮絶な銃撃戦になる理由が僕には見当つかなかった。これも純粋が成せる技なんだろうか。
…………いや、今回のは違うな。うん。
「他には?」
「マリさんにやったら、『残念。僕のシールドを抜きたかったら対戦車ライフルでも持ってくるんだったね』ってカッコよく言われた」
「咄嗟にそれだけ言い返す曽根原が怖い」
対戦車ライフルなんて日常じゃあ使う機会がまったくない言葉だというのに、何故そんな言葉がすらりと出てくるんだろうか。
まぁ曽根原なら出てきてもあまり違和感がないのだけど。
「でも実際にピストルを向けられてちゃんと反応できる人っているのかな?」
「普通はいないよ。それこそアクション映画みたいに、日常的に銃撃に晒されるような職業でも就いてない限り」
少なくともこの日本でまともな対応ができるのはごく僅かだろう。もちろん、そんな心配をするまでもなくピストルを向けられるような状況は起こり得ないけれど。
「そんな人達でも、この手がぽろっと取れて中からピストル付き義手が出てきたりしたら反応できないんだろうねー」
「もっちん、それはさすがに漫画の読み過ぎだよ」
正直あの手の隠し技は、卑怯というより滑稽と感じてしまう。そんな機能をつけるくらいなら、最初からもっと性能のいい義手にすればいいのに。
そういえば義手代わりの銃って、どういう風に引き金を引くんだろうか。確か脳波を読みとって機械を手足の如く動かすブレイン・マシン・インターフェースという技術があるらしいけれど、『引き金を引く』という動作にのみ反応する為の義手って、考えれば考えるほど無駄でしかない。
まぁ、漫画の設定にいちいち突っ込みを入れる方が野暮か。
「で、ぐっさん。マリさんのシールドを突破するには、どうしたらいいと思う? 対戦車ライフルってどんなのかわからないし。いっそ気を覚えてビームみたいにずとーんとやるしかないかな?」
「……普通に殴ればいいと思うよ」
というかもっちん、何故そこまでして自身の強化を図ってるんだろうか。
もっちんが楽しそうだから別にいいんだけれど。