017 世紀末

 

 

 

 

 

「いま思うとさー。世紀末ってけっこうあっさり過ぎだよな」

例によってアッキーの唐突な話題振りだけれど、そろそろ僕も驚かない。いつもどおりの口調で返事をする。

「アッキー。もしかしてあの名作読んだ?」

「おう読んだ読んだ。でもあれ、マッサージしてもらってる時にうっかり秘孔突いちゃって人体爆発ってことなんないのかな?」

「まぁそこは漫画お約束の気か何かを流し込んでるんだと思うよ。知らないけど」

僕の返答にアッキーは「なるほど」と掌を拳で叩くというリアクション。古典的故にわかりやすい。

「で、話は戻るけど、世紀末ってなんか、名前ほどすごいことあったっけ? なんかこう、人類が滅亡するとか、宇宙人と戦争になるとか」

「アッキーは人類が滅亡したり、宇宙人と戦争になったりしてほしいの?」

「いや別に。てゆーかしてほしくない」

本当に嫌そうな顔で言い、次いで「けどさ」とアッキー。

「俺たち、あの頃小学生だっただろ? マンガとかにめちゃくちゃ影響される年じゃん。でも実際は世界がひっくり返るようなすげーことはぜんぜんなくて、なんか子供心にもつまんねーって思ったの、思い出したんだよ」

「あのマンガはそういう子供心を思い出す為の作品じゃないはずなんだけどね」

「そうそう、バトルメインなんだけどな」

微妙に論点のずれた事を言い合う僕ら。

おそらくアッキーに限らず、多くの人が「世紀末」という言葉に何かしらの期待を抱いていたと思う。別に期待に限らず、「何かが起こる」とは思っていたんじゃないだろうか。

一〇〇年に一度の出来事。別段、それまでの年月と物理的に何が違うというわけでもないのに、たったそれだけの事実でこうまでも期待され、何もなければ失望される。

あの名作よろしく世紀末という時代を時間軸においた作品は、まさしく世紀末に対する期待であり、何もなかったことへの失望を表したものという解釈だってできる。

結局の所、

「アッキー」

「ん?」

「地球が誕生してから何年経ったか知ってる?」

「んー、確か四六億年とかだっけ?」

「そうだよ、四六億年だ。それを考えるとね、一世紀なんて地球にとっては四六〇〇万回も過ぎた事なんだよ。まぁ地球に換算するから尋常じゃない数値になるけど、人間が勝手に数え始めた西暦で考えても、すでに二〇回も過ぎた事なんだ。そう思うと、正直世紀末なんてありふれたことだと思わない?」

そう言うと、アッキーは「確かに」と言って何度も頷いた。

本当の事を言えば、地球にとっては四六〇〇万回過ぎた事でも、人類にとって二〇回過ぎた事でも、その時代を生きる一〇〇年程度しか生きられない人間にとっては人生一度きりの体験で、だからこそ世紀末という事実に過大な期待を寄せてしまうのだろう。

まぁ、どの道その「人生一度きり」を体験してしまった僕らには、もう世紀末という言葉に翻弄されることはないだろうが。

「ちょっと話ずれるけど、『世紀末』って言葉の終わり感はハンパねえよな」

「確かに。もうこの次はない感じだね」

「『年末』も終わりっぽいな」

「うん、やることやった感じ」

「『週末』も」

「達成感あるね」

「でもなんで『月末』だけ金欠な感じすんだろ?」

「実際お金がないからだと思うよ」

結局僕らは節目というものに振り回される存在なのだろう。それが一年に十二回もある出来事だとしても。

 

 

 

 

 

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