序章 魔王の死、そして

 

 

 

 

 

地理・文明ともに地球と酷似した、とある世界。

この世界には魔法が存在し、そして魔王が存在していた。

魔王の居る周辺のみ、何処からともなくモンスターが現われ、人を襲ったりもする。

そんな危険を振りまく魔王に対抗すべく、世界にたった一人、唯一魔王を殺す事ができる剣(エクスカリバー)を操る者、勇者がいた。

封印の台座に突き刺さったその剣を勇者だけが引き抜く事ができ、それが勇者の証となる。剣は持ち主に力を与え、魔王を倒す手助けをしてくれる。

魔王が確認されて一〇〇〇年。今まで幾多の死闘を繰り広げ、歴代の勇者達はこれまた歴代の魔王達を倒して世界を救ってきた。

しかし殺された魔王の力はその死と共に転生し、継承されていく。

延々と繰り返される魔王との対決。しかし、勇者達は諦める事なく戦い続けた。

そして今。例の如く、現代の魔王の居城にて勇者が魔王を葬らんと闘っていた。

 

 

***

 

 

「でやぁぁぁ!!」

金髪の青年が雄叫びを上げ、自分の敵に向かって剣を振るった。閃光の如く振るわれた剣は、しかし敵に避けられる。

青年の敵である禿頭の壮年の男は、自分の身の丈ほどある大鎌を青年に向かって振るった。刃が青年の首に迫る。

「くっ!」

大鎌が頭と胴体を切断する寸前、青年は身をかがめて刃をかわした。鋭い風切り音とともに、わずかに青年の髪の毛が舞い散る。

青年は身をかがめたまま地面を蹴り、禿頭の男から離れた。その隙を逃さず、禿頭の男は武器を握っていない左手に魔力を集中させ、

「アイスフォール!!」

青年に掌を向けて叫ぶ。瞬間、何十という数の氷のつぶてが現れ、その全てが青年へと矢のような速度で飛来した。

「イグニスバーラ!!」

男が魔法を唱えたと同時に、青年も魔法を唱えていた。青年の剣の先に集まった魔力が巨大な炎の塊へと変化する。青年が剣を振ると、炎が発射された。

氷と炎。同程度の魔力が練られた二つの魔法が衝突、ドゴォンッ!! という爆音とともに相殺した。爆散された炎が灼熱の風を、粉砕された氷が極寒の風を生みだす。

熱気と冷気を同時に感じる空間を裂き、青年と男が再びぶつかり合う。

ギガガガガ!! と、高速で繰り出される剣と刃の弾き合う音が連続で重なり合った結果、一つのつながった音として空間に響き渡る。

「はあっ!」

「ちいっ!」

打ち合うこと数十合。連撃の合間にできた一瞬の隙をついて、気合いの声とともに青年が強烈な一撃を加える。一秒にも満たない時間で受けきれない事を察知し、男は後ろへと跳躍。寸前のところで青年の剣をかわした。

男が青年と一〇メートルほどの距離をあけて着地すると、青年はそちらへと切っ先を向けた。応えるように男も刃を青年へと向ける。

肩で息をしている二人が互いの武器を構え、睨み合う。気迫が衰える事はないものの、どちらももう体力・魔力の限界が近いのが目に見えていた。

声は交わさずとも、二人とも考えている事は同じだった。

次の一撃で決める。

青年が持つ、豪奢な装飾のされた剣が、青白い光を放つ。

対して男が持つ大鎌の刃が、赤黒い波動をまとい始めた。

両者の間の空気が張りつめ、肌を刺すような殺気が二人を、地面を、大気を軋ませてゆく。

「いくぞ……」

青年が呟き、手に持つ剣を強く握りしめた。

「これで最後だ!!」

「ほざけ小僧! 死ぬのは貴様だ!」

声を張り上げ、地面を砕いて二人は駆け出した。目の前の敵に向かって、躊躇うことなく一直線に。

それぞれ剣と大鎌を振りかざし、身に宿る力の全てを込めた必殺の一撃を放つ。二人の距離がゼロに縮まった時、

 

もはや表現不可能の轟音が、世界を支配した。

 

あまりの強大な威力の両者の攻撃がぶつかり合い、相殺された音だった。

その轟音を生み出した二人は、数メートルの距離を空け、背を向けあって立っていた。

数秒して青年が膝を着く。そして――

「ぐはっ!」

男が血を吐き、仰向けに倒れた。胸から腹にかけて一目で致命傷とわかる大きな傷が体を縦断していた。

止まる事のない血が地面を汚していった。男を中心に血の円が広がっていく。

「く、そ……。この代も、貴様ら、勇者の勝ち、か……」

溢れる血を止めようとせず、呟く。その顔に浮かぶのは、壮絶なまでの笑みだった。

「だが、我ら魔王は死なん……。幾度でも蘇り、この世界をっ……」

声高らかに叫び、そして何も言わなくなった。

 

 

 

 

 

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