ハロウィンSS in 2011
「Trick or treatment and hair
essential damage care!」
「……………………」
ガラララ、ガシャン
玄関を開けた瞬間に聞こえてきた意味不明な単語の羅列とそれを言った奇怪な人物を認めて、俺は無言で引き戸を閉めた。
「こら待て樹! お前いつからスルースキルなんて身につけやがった!?」
「反応する所そこかよ!? つーか何故家の前にナマハゲがいるんだよ! そしてナマハゲがネイティブばりの英語使ってんじゃねえ!!」
「NAMAHAGEだってグローバル社会に適応しようとして何が悪い!」
「英語の後半が意味不明すぎて適応できてるように一切思えねえよ!」
我が家に侵入する為に引き戸を開けようとする不審者。俺は必死に防衛を試みるが、無駄に引き下がらない馬鹿のせいで埒が明かない。
俺は作戦を変えて押さえていた引き戸から手を離して少し下がった。
「フハハハ、侵入してやったり! さぁ、イタズラされたくなくばお菓子を――」
ゴキッ
「よこさばっ」
不審者が入ってくると同時にかましたドロップキックが狙い通り顔面を捉え、お祭り馬鹿を敷地外へと吹き飛ばした。
何かを踏み砕いたような嫌な足応えがあったが、顔面の骨が折れたわけじゃないだろうから気にしない。
「一応聞いてやる。何の用だ、龍次」
「一〇月三一日っていったらハロウィンと秩父事件以外何があるってんだよ」
「後半は知らなかったぞ。つーか今のお前の格好と秩父事件は一ミリも関係ないだろ」
俺のドロップキックで半壊したナマハゲの被り物を申し訳程度に手で整えつつ、復活した龍次が立ち上がる。
「秩父事件はともかく、今日がハロウィンという事は樹でも知っている事実。そして俺は仮装をして樹の家に来た。この意味がわかるか?」
そう言うと、被り物が半壊して露わになった口元がにやりと笑みを作った。嫌な予感が全開。
「お菓子をくれないならばイタズラするまでよ! 隙あり!」
叫ぶやいなや、龍次は俺の家の塀をあっという間に登り、敷地内へ侵入。勝ち誇ったような高笑いと共に庭から家の中へと駆け込んでいった。
……日本家屋って、玄関以外からでも侵入しやすい所が問題だよなぁ。まぁ、だから家の周りを塀で囲んでいるんだろうけど、あんなにあっさり侵入されるのを見てしまったら、さすがに防犯意識の低さを感じてしまう。
ちなみに俺が幼馴染とはいえ不審者に家に勝手に押し入られてこんなに呑気な理由は、
ゴシャッ
「ぬぞすっ」
あんな変質者が家に侵入してくれば全力で迎え撃つ。そんな血の気の多い人しかいないのがウチの家系だからだ。
案の定、家から放り出されるような形で吹っ飛んできたナマハゲは、家の塀に激突してそのまま地面に落ちた。
もはや確かめるまでもなくボロボロだった。
「ここまでぼこられたのは久しぶりだぜ……」
「何しようとして何されたんだ」
「樹の机の上に女王様系のエロ本を置いて家の中の空気をぎくしゃくさせるイタズラを仕掛けようとしたら、樹の部屋に着く前に廊下でおじさんに殴られて、居間でおばさんに投げられて、道場でじーさんにブッ飛ばされた」
「なるほど」
メキッ
「げぼがっ!? な、何故追い打ちをかける!? ていうかこのボロボロ状態の俺に顔面下段突きなんてお前は鬼か!」
「誤解しか招かないようなイタズラを仕掛けようとするな。あと被り物してるんだから威力半減してるだろ。これが情けだ」
「ちくしょう、何故か今日は俺が突っ込みに回ってしまっている!」
龍次はもはや原形を留めていない被り物を捨て去ると、悔しげに言い放った。
そりゃあお前、お前が勝手に特攻してボコボコにされて自爆したんだから、俺が突っ込む義理はないだろ。
「まぁ突っ込み云々はともかく、樹んちでお菓子をゲットするのは難しそうだな。よし樹、次は朱音んちに行こうぜ」
「いや自然な感じに誘うなよ。第一、烏丸家に行ってお菓子が貰えると思ってるのか?」
「お兄さんが出ればいけるんじゃね?」
「……確かあの人出張中だぞ」
「烏丸家の良心が出張? 大丈夫かあの家」
「言っとくけど、ウチの家と比べたら全然普通だからな、あの人達」
朱音の爺さんはアレだが、小父さんは寡黙だけど話は分かる人だし、小母さんはおっとりしてるが人はいいし。たぶん龍次がこんな格好して行ってもウチみたいに過激な事にはならないだろう。爺さん以外。
ただ小母さん以外が出たら色々と面倒くさそうだ。
「そうか。なら揚羽ちゃんとか春菜ちゃんちに行くしかねえな。おっとタカの家も忘れていた」
「……お前、そのテンションで行かないよな?」
「さすがに女の子の家にナマハゲスタイルで行く格好悪さは持ち合わせていない」
聞く限り、タカの家ならこのままの格好で行きそうだな、こいつ。
別にタカはどうでもいいが、龍次の馬鹿な行動に付き合わされては蛍先輩やタカの両親には申し訳ない。というか、本当にウチに来た時みたいなテンションで行かれたら問題が多すぎる。
仕方ない。退屈はしないだろうし、見張る意味でもついていくか。
「それじゃあ『スイーツ珍道中〜イタズラだらけのパーリィナイト〜』第二幕と行くか」
「ごめん、やっぱり帰っていいか?」
条件反射の突っ込みだっただけに、思いっきり本音が出てしまった。